家の中に侵入してくる大きな蟻、例えばクロオオアリやムネアカオオアリといった種は、本来、森林や草地などの自然環境で生活しています。彼らがなぜ、餌も豊富とは言えない人間の家屋にわざわざ侵入してくるのでしょうか。その背景には、彼らの生態に基づいたいくつかの理由が考えられます。最も大きな理由は、やはり「餌の探索」です。これらの大型アリは雑食性であり、昆虫、樹液、花の蜜、アブラムシの甘露など、多様な食物を摂取します。特に、活動が活発になる春から秋にかけては、巣の維持と繁殖のために大量の餌が必要となり、働きアリは巣から広範囲にわたって探索活動を行います。その過程で、人間の家屋から漏れ出る食べ物の匂い、例えば、糖分の多いお菓子やジュース、あるいはタンパク質源となる肉や魚の食べこぼしなどに誘引され、侵入を試みるのです。彼らは非常に優れた嗅覚と、仲間が残した道しるべフェロモンを頼りに餌を探します。一度家の中に餌を発見すると、フェロモンを使って仲間を呼び寄せ、行列を作って侵入してくることもあります。次に考えられるのは、「営巣場所の探索」です。特に、結婚飛行を終えた新女王アリが、新たな巣を作る場所を探して家屋内に迷い込むことがあります。また、既存の巣が何らかの理由(環境の変化、天敵の出現など)で住みにくくなった場合に、より安全で快適な場所を求めて移動し、その過程で家屋に入り込むことも考えられます。家屋の壁の隙間や床下、屋根裏などが、朽木や土中に似た、暗く湿度の保たれた環境を提供してしまう場合、そこを新たな営巣場所として定着してしまう可能性もゼロではありません。さらに、「偶発的な迷い込み」も理由の一つです。屋外で活動していたアリが、特に強い目的もなく、開いていた窓やドアから偶然入り込んでしまうケースです。これは単発的な侵入で終わることが多いですが、家の中に餌となるものがあれば、それがきっかけで定着してしまう可能性もあります。このように、大型アリの家屋侵入は、彼らの餌探索行動や営巣習性、そして家屋の構造や環境が複合的に絡み合って発生します。彼らの生態を理解することが、効果的な侵入防止策を考える上で不可欠となるのです。