緑豊かな郊外の住宅街に暮らす田中さん一家は、ある夏の日、奇妙な出来事に遭遇した。リビングの窓際で、妻の聡子がこれまで見たこともないほど大きな黒い蟻を発見したのだ。「あなた、ちょっと来て!すごい大きい蟻がいるわ!」聡子の声に、夫の隆も駆けつける。確かに、体長1センチは優に超えるであろう立派な蟻が、床の上を歩いていた。その日は、その一匹を退治して終わったが、翌日、キッチンで、さらにその次の日には子供部屋で、同様の大きな蟻が次々と発見された。最初は偶然家の中に迷い込んだだけだと思っていたが、こうも頻繁に出現するとなると話は別だ。「どこかから入ってきてるんだろうけど、一体どこから…」隆は窓やドアの隙間を確認したが、特に大きな穴は見当たらない。家の中を清潔に保ち、食べ物を放置しないように気をつけても、蟻の出現は止まらなかった。不安は募るばかりだった。そんな折、隣家の鈴木さんから、「うちでも最近、大きな蟻をよく見るんだけど、田中さんとこはどう?」と尋ねられた。話を聞くと、向かいの佐藤さん宅でも同様の現象が起きているという。どうやら、この一帯で大きな蟻が異常発生しているらしかった。住民たちは集まって対策を話し合ったが、発生源も侵入経路も特定できず、途方に暮れていた。心配した住民の一人が自治会を通じて市役所に相談したところ、市の環境課と害虫駆除の専門家が調査に乗り出すことになった。専門家は、住民からの聞き取りと現地調査の結果、住宅街の裏手にある小さな公園の隅に、伐採されたまま放置されていた大きな切り株があることに注目した。その切り株を詳しく調べると、内部が巨大なクロオオアリの巣になっていることが判明したのだ。おそらく、巣の規模が大きくなりすぎたか、何らかの環境変化により、働きアリたちが餌を求めて広範囲に移動し、住宅街にまで侵入してきたのだろうと推測された。原因が特定され、専門業者が巣の駆除を行った結果、住宅街から大きな蟻の姿は徐々に消えていった。この一件は、身近な環境の変化が思わぬ害虫被害を引き起こす可能性と、問題解決のためには地域住民と専門家、行政が連携することの重要性を示す事例となった。
静かな住宅街騒然巨大蟻侵入事件簿