ゴキブリの卵鞘は、その硬いキチン質の殻によって外部の環境変化や薬剤から中の卵を保護しています。そのため、成虫には効果のある殺虫剤でも、卵鞘に対しては効果が薄い、あるいは全く効かない場合があります。ゴキブリの根絶を目指す上で、この卵鞘をどう攻略するかは非常に重要なポイントです。市販されている殺虫剤を選ぶ際、卵にも効果があるかどうかを確認することが大切です。パッケージに「卵にも効く」といった表示がある製品は、卵鞘の殻を浸透しやすい成分や、孵化した幼虫をすぐに駆除できるような成分が配合されている可能性があります。例えば、イミプロトリンやフェノトリンといったピレスロイド系の殺虫成分の中には、比較的卵への効果も期待できるものがあります。スプレータイプの殺虫剤で卵鞘に直接噴射する場合、薬剤が内部までしっかり浸透するように、十分な量を吹きかける必要があります。ただし、前述の通り、卵鞘を潰さないように注意が必要です。ベイト剤(毒餌)は、食べた成虫や幼虫を駆除するものであり、直接卵鞘に作用するわけではありません。しかし、ベイト剤によって親ゴキブリや孵化した子ゴキブリを着実に駆除していくことで、新たな卵鞘が産み付けられるのを防ぎ、結果的に繁殖サイクルを断ち切る効果が期待できます。燻煙剤や燻蒸剤は、部屋の隅々まで殺虫成分を行き渡らせることができるため、隠れた成虫や幼虫には効果的です。しかし、卵鞘に対しては、薬剤が硬い殻に阻まれて内部まで到達しにくいため、十分な効果が得られないことが多いとされています。そのため、燻煙剤を使用する場合は、卵が孵化するタイミング(一般的にチャバネゴキブリで約3週間、クロゴキブリで約40~50日)を見計らって、複数回使用することが推奨されています。プロの害虫駆除業者は、市販品よりも高濃度で効果の高い薬剤や、特殊な施工技術を用いて卵対策を行います。例えば、マイクロカプセル化された薬剤を使用し、カプセルが壊れることで徐々に殺虫成分が放出され、孵化した幼虫に効果を発揮するようにしたり、IGR(昆虫成長制御剤)と呼ばれる成分を用いて、卵の孵化や幼虫の成長を阻害したりする技術もあります。ゴキブリの卵対策は一筋縄ではいきませんが、薬剤の特性を理解し、適切な製品を選び、必要であれば他の対策と組み合わせることが重要です。