都内近郊に暮らす佐藤さん一家(仮名)は、共働きで忙しい日々を送っていた。そのため、食料品は週末にまとめ買いし、キッチンにある大きなパントリーにストックしておくのが常だった。パントリーには、パスタや小麦粉、乾物、お菓子、ペットフードなどが雑然と置かれていた。異変に最初に気づいたのは妻の陽子さんだった。ある日、パントリーの棚に置かれたビスケットの箱の周りに、小さな茶色い虫が数匹いるのを発見したのだ。「なんだろう、この虫…」気にはなったものの、忙しさにかまけて深く追求することはなかった。しかし、数日後、その虫がパントリーだけでなく、リビングや寝室でも見かけるようになった。壁を這っていたり、照明器具の周りを飛んでいたりする。さすがに異常を感じた陽子さんがパントリーを詳しく調べてみると、事態の深刻さが明らかになった。長期間置きっぱなしになっていた開封済みのドッグフードの袋が、タバコシバンムシの発生源となっていたのだ。袋の中は、おびただしい数の成虫と幼虫で埋め尽くされており、周辺の棚や他の食品にも被害が広がっていた。小麦粉の袋には穴が開き、パスタの袋の中にも虫が侵入。未開封のお菓子の箱の中にまで入り込んでいるものもあった。成虫がパントリーから家中に飛散し、文字通り「大量発生」してしまっていたのである。佐藤さん一家は愕然とした。すぐに被害のあった食品を全て処分し、パントリーを徹底的に清掃したが、家の中に広がった成虫を完全に駆除するのは困難だった。掃除機で吸っても、殺虫剤を撒いても、次から次へと現れる。最終的に、佐藤さん一家は専門の害虫駆除業者に依頼することを決断した。業者は、発生源の特定と除去、薬剤による徹底的な駆除作業、そして再発防止のためのアドバイスを行った。費用はかかったが、ようやく家の中からタバコシバンムシの姿は消え、安心して生活できるようになった。この事例は、食品の不適切な管理が害虫の大量発生を招くこと、そして一度被害が広がると個人での完全な駆除が困難になる場合があることを示している。