高橋さん一家は、清潔好きで知られていた。キッチンはいつもピカピカ、生ゴミもこまめに処理し、排水口の掃除も欠かさない。それなのに、ここ数週間、どこからともなくコバエが湧いてきて、家族は頭を悩ませていた。「おかしいわね、うちはきれいにしているはずなのに…」妻の智子さんは首を傾げる。夫の健一さんも、インターネットで調べた対策は一通り試してみた。置き型のコバエ取りを設置し、めんつゆトラップも作ってみたが、効果は今ひとつ。コバエの種類は、どうやら生ゴミに集まるショウジョウバエとは少し違う、黒っぽくて素早いノミバエのようだ。「ノミバエなら排水口かゴミ箱の汚れが原因のはずだが…」健一さんは、改めてシンクと洗面所、浴室の排水口を徹底的に掃除し、ゴミ箱も丸洗いした。しかし、状況は変わらない。リビングや寝室でもコバエを見かけるようになり、家族のストレスは募るばかりだった。「もしかしたら、見えないところに原因があるのかもしれない」そう考えた健一さんは、家の中を徹底的に調査することにした。まず疑ったのは冷蔵庫の裏だ。古い冷蔵庫の場合、蒸発皿に水が溜まり、そこが汚れて発生源になることがあるという。しかし、高橋家の冷蔵庫は比較的新しく、裏側もきれいだった。次に、観葉植物の鉢をチェックしたが、キノコバエではなさそうだ。家具の裏や部屋の隅のホコリも掃除したが、決定的な原因は見つからない。「もうお手上げかな…」諦めかけた時、ふと健一さんはある可能性に思い当たった。それは、数ヶ月前に床下収納庫に入れたまま、すっかり忘れていたジャガイモと玉ねぎのことだった。恐る恐る床下収納庫の蓋を開けてみると…案の定、一部が腐りかけてドロドロになったジャガイモと玉ねぎの周りを、無数のノミバエが飛び交っていたのだ。「これだ!」原因が特定できた瞬間、安堵と脱力感が押し寄せた。すぐに腐った野菜を処分し、収納庫内をきれいに清掃・消毒した。すると、翌日からは嘘のようにコバエの姿が見えなくなった。高橋さん一家のコバエ騒動は、思いもよらない場所にあった忘れられた食品が原因だった。この一件で、彼らは家の中のあらゆる場所に発生源が存在し得ることを学び、日頃の整理整頓と点検の重要性を再認識したのだった。